大江戸ロミオ&ジュリエット
もともと、武家や商家や農家でも庄屋などは、家族であっても男とおなごとは同じ部屋では食さない。
男はみんなで座敷で取るが、おなごはみんなで竈のある土間から一番近い部屋で取ることが多い。
だが、富士は毎食、寝間にしている自室で、一人きりで取っているらしく、なにも云わずに去って行った。
おせいが膳を運んできた。
竈のある土間にある小上がりの、六帖ほどの板間にそれを置く。
志鶴の実家では、ここで食するのは奉公人たちだ。奉公人たちは男女問わずみんなで食す。
流石に志鶴は奉公人たちと膳を並べて、というわけではないが。
膳の上には、一膳の飯とおみおつけ、そして沢庵が三切れだけあった。朝餉だから、であろう。
「……御新造さんには早う食べてもらわんと、あたしらが食べられんから」
一重の細い目の、のっぺりとした目鼻立ちのおせいは、ただそれだけを早口で云った。
「御新造」とは武家でも御家人の妻に対する呼び名である。
他の者たちは、朝の挨拶すらなかった。