大江戸ロミオ&ジュリエット
朝餉を終えた志鶴は、なにもすることがなかった。
志鶴のことを任されたといっても、「御付きの者」というわけではなく、おせいには他にも細々とした仕事があるようだった。
「話し相手」になるような気配は一切なかった。
『顔も見とうない』『声も聞きとうない』と云われた姑の富士は、自室に籠っているようだ。
仕方なく、志鶴も自室に戻った。
実家と同じく三百坪はあるであろう松波の御屋敷であったが、志鶴にあてがわれた部屋は、乾の一番端の、朝はさっぱり陽が差さず、夕刻近くになってようやく西陽が届く、じめじめした場所にあった。
腕利きの職人の手が入った立派な中庭があったが、志鶴の部屋からはその端しか見えなかった。
かろうじて見えるその端を眺め、志鶴はほうっと深いため息をついた。
実家では母親が出かけて留守であっても、奉公人たちとなにやかやと話していた。
だれとも話さずに日がな一日を過ごすことが、こんなにも寂しくて侘しいことだなんて、知らなかった。
……かようなことが、
これから三年も、続くのであろうか……