大江戸ロミオ&ジュリエット
◇敵の陣屋の場◇
松波の家では、だれも志鶴に気安う話しかける者はおろか、挨拶一つする者もいなかった。
志鶴の世話を申しつけられているおせいですら、用件以外はなにもしゃべらなかった。
しかも、いつもなにを考えているのか皆目わからない、のっべりとした表情だった。
志鶴はこの家ではまるで、我が身がおらぬものとして扱われているのか、とやりきれない思いに駆られたが「致し方なきこと」と堪えた。
ただ……どうにも堪えられなかったのが「御飯」であった。