大江戸ロミオ&ジュリエット
だが、志鶴は武家のおなごだ。
しかも夫が「浮世絵与力」である。
のこのこと辻へ出て、お菜を買うた日には、世間からなにを云われるか知れやしない。
松波の家に、更には実家の佐久間の家にも泥を塗ることになる。
だからと云って、代わりにお菜を買いに行かせるような心易き者もいない。
ゆえに、志鶴は必死で空腹に耐えた。
……白米の飯を、ちゃんと日に三度、いただけておるではないか。
百姓たちを見よ。我が等で作っておるにもかかわらず、日に二度しか食べぬと云うではないか。しかも、かて飯だ。
志鶴は我が身に云い聞かせた。