大江戸ロミオ&ジュリエット
志鶴はできることをしようと心に決めた。
どうせ、話し相手もおらず、昼間は暇を持て余しておるのだから、縫い物でもいたそうと思った。
実家から持たされた木綿の反物を手に取る。
……身に纏ってもらえるかはわからぬが、旦那さまの浴衣でも縫ってみてござろうか。
多聞は、長身の兄の帯刀より、身丈がさらに一寸(約三・三センチ)ほどありそうだった。
兄には幾度も着物を縫ったことがあるから、寸法は心得ている。
……旦那さまは肩幅がしっかりして、手脚が長う見えたゆえ、念のため裄丈と褄下は兄上のよりも一寸半(約五センチ)ほど出しておこうか。二寸(約六・六センチ)では長すぎるでござろう。あとは兄上と同じでござんしょう。
祝言では、恥ずかしくて夫となる人の顔が見られなかったのに、顔から下は結構見ていたのだということを、志鶴は今気づいた。
さようなことを少し意外に思いつつ、早速、巻かれた反物の布地を広げて、物差しで寸法を測り、待ち針で印をつけていく。