大江戸ロミオ&ジュリエット
「入れ」
短い応えが返ってきて、志鶴はすぅーっと襖を開ける。
夜具の傍らに胡坐で座した多聞がいた。
「入って参れ」
……やはり、話があるのだな。
今までは、廊下から部屋の中にすら入れなかったということに、志鶴は今さらながら気がついた。
志鶴は膝を進めて寝間に入ると、くるりと背を向けて襖を閉めた。
「近う、寄れ」
志鶴は一礼して、更に膝を進めた。
だが。
「……なにをしておる。もそっと近う寄れ」
そう云いながら身を伸ばした多聞が、志鶴の腕を取った。
その刹那、志鶴の身体がふわり、と浮いた。