大江戸ロミオ&ジュリエット
◇南町奉行の場◇
南町奉行所で年番方与力を務める松波 源兵衛は、南町奉行からの呼び出しを受けて、改まった面持ちで待っていた。
『御奉行の手が空くまで、執務をされておる座敷の外で待つように』と、奉行を側仕えする公用人である内与力から申し渡されていた。
その内与力は、娘の寿々乃の夫である水島 織部であった。
「織部、此度の呼び立ては、やはり先般の同心たちの小競り合いの件か」
源兵衛は娘婿に尋ねた。
「舅上、我が口からはなんとも」
口が固いのが信条の「内与力」は、苦笑いした。
「ただ……」
織部の目がほんの刹那、悪戯っぽい光を放ったように見えた。
「寿々乃を先に娶っておいて、ようござったと安堵いたしておりまする」
二人の間には既に、男女一人ずつの子どもがいた。
「松波様、お待たせ仕った。
……お入りくだされ」
そうこうしているうちに、隔てられていた襖が開き、源兵衛が中に呼ばれた。