大江戸ロミオ&ジュリエット

不意に、多聞が志鶴の顎にそっと指をかけ、上を向かせた。

「すまぬが……おぬしの顔を、しかと見せてくれぬか」

多聞の凛々しく整った顔が、志鶴の(なつめ)の形の美しい瞳に映った。

「我が妻の顔も満足に拝めぬとは、夫として情けのうござるからな」

そう云って、多聞がにやりと不敵に笑った。
浮世絵で見たままの笑顔であった。

志鶴の頬が、かあっと朱に染まる。

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