大江戸ロミオ&ジュリエット
志鶴は固まった。
殿方から「口吸い」されたのは、無論初めてだ。
身体中を、濁流のように血が巡る。
心の臓がばくばくと音を立てるのが、聞こえる心持ちがする。
「もっと……おぬしの歩みに合わせるつもりだったのだがな」
唇を離した多聞の顔が、苦しげに歪む。
いや、せつなげに、だろうか。
「悪うござるが……もう辛抱できぬ……っ」
多聞の唇が、勢いよく押しつけられる。
驚いた志鶴のくちびるが、ふわりと開いた。
すかさず、多聞の舌が滑り込む。
そして、志鶴の口腔を縦横無尽に動き回る。
やがて、志鶴の舌をしっかりと捕らえた。
志鶴は金縛りに遭ったように、かちこちに固まって、ぴくりとも動けなくなる。
ただ、ぎゅうぅっと目を閉じることしかできなかった。