大江戸ロミオ&ジュリエット

ほんの刹那、唇を離した多聞が訊く。

「……おぬしを、わしの妻にしても……よいな」

しかし、志鶴の返事を待つまでもなく、これでもかというほどもっと強く、多聞の唇が押しつけられる。

暗闇の中で、行燈(あんどん)が妖しい光を放って(ねや)を照らしている。

多聞の(せな)には、志鶴の嫁入り道具の色鮮やかな錦の夜着が見える。

なにより、志鶴の口の中で(うごめ)く多聞の舌が燃えるように熱い。まるで火を注ぎ込まれているかのようだ。

志鶴は腰に力が入らなくなり、がくっと崩れ落ちそうになる。

多聞はすかさず、両の手で志鶴の背をしかと受け止めた。

志鶴はただ、ぼおっとなって、多聞の腕に身を任せるしか(すべ)がなかった。

だが、そのとき。


……志鶴は、はっ、と思い出した。

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