大江戸ロミオ&ジュリエット
おせいの案内で、初めて姑の部屋に向かった。
「志鶴にてござりまする」
座敷の中へ膝を進めると、富士とその正面に座した年若いおなごが楽しげに語らっていた。
年若いおなごが志鶴を見た。
「……そなたが多聞さまの」
一重のすっとした切れ長の目で、じっと見つめられる。
瓜実顔のたいそうな美人である。
まるで、鳥居清長が描いた美人図から、抜け出てきたかのようだ。
「妻の志鶴にてござりまする」
一礼して挨拶した。
「……はっ、妻らしいことなぞ、なに一つしてはおらぬのに、口上だけはご立派でござりまするなぁ」
富士が呆れ果てたという声音で、鋭く告げる。
「妻らしいこと」を一切させぬのは、その姑であるのだが。