大江戸ロミオ&ジュリエット

おせいの案内で、初めて姑の部屋に向かった。

「志鶴にてござりまする」

座敷の中へ膝を進めると、富士とその正面に座した年若いおなごが楽しげに語らっていた。

年若いおなごが志鶴を見た。

「……そなたが多聞さまの」

一重のすっとした切れ長の目で、じっと見つめられる。

瓜実顔のたいそうな美人である。
まるで、鳥居清長が描いた美人図から、抜け出てきたかのようだ。

「妻の志鶴にてござりまする」

一礼して挨拶した。

「……はっ、妻らしいことなぞ、なに一つしてはおらぬのに、口上だけはご立派でござりまするなぁ」

富士が呆れ果てたという声音で、鋭く告げる。

「妻らしいこと」を一切させぬのは、その姑であるのだが。

< 83 / 389 >

この作品をシェア

pagetop