大江戸ロミオ&ジュリエット
「お千賀ちゃんが多聞の嫁ならば、わたくしもかように心を痛めることなく済んだものを……」
富士が打って変わって、口元に袖を寄せ、よよっ、としおらしく嘆く。
「伯母上、御奉行様の御取り計らいでござりまするゆえ。我れらにはどうすることもできませぬ」
千賀が富士の肩に手を乗せて宥める。
「……多聞もかわいそうに。
幼き頃より許嫁であったお千賀ちゃんと夫婦にもなれず……まるで『野崎村』ではあるまいか」
さらに、富士は畳に突っ伏すかのごとく腰を折る。
「伯母上……せんなきことを云うてくれまするな」
千賀が富士の背を摩る。