大江戸ロミオ&ジュリエット

「お千賀(ちか)ちゃんが多聞の嫁ならば、わたくしもかように心を痛めることなく済んだものを……」

富士が打って変わって、口元に袖を寄せ、よよっ、としおらしく嘆く。

伯母(おば)上、御奉行様の御取り計らいでござりまするゆえ。()れらにはどうすることもできませぬ」

千賀が富士の肩に手を乗せて(なだ)める。

「……多聞もかわいそうに。
幼き頃より許嫁(いいなずけ)であったお千賀ちゃんと夫婦(めおと)にもなれず……まるで『野崎村』ではあるまいか」

さらに、富士は畳に突っ伏すかのごとく腰を折る。

「伯母上……せんなきことを云うてくれまするな」

千賀が富士の(せな)(さす)る。

< 84 / 389 >

この作品をシェア

pagetop