大江戸ロミオ&ジュリエット

ちなみに「野崎村」とは、歌舞伎の演目の一場面である。

(みつ)が幼なじみの許婚(いいなずけ)である久松(ひさまつ)との待ちに待った祝言の日に、久松がかつて奉公していた油屋の娘のお(そめ)が、突如訪ねてくる。
そして、夫婦(めおと)になれぬ久松に心中を持ちかける。
実は、お染が久松の子を身籠っていたのだ。
それを知ったお光は急遽、尼さんになる(出家する)ことで、泣く泣く我が身を引いたのであった……という筋立てである。


無論、志鶴の役回りは「お染」だ。

しかし、そもそも久松とお染は、子を()すほど相惚(あいぼ)れしていて、久松は無実の罪を着せられてお(たな)から放免されて、渋々国許(くにもと)に帰っていたため「お邪魔虫」なのは、むしろお光の方なのだが。

ゆえに、人形浄瑠璃では「染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)」、歌舞伎では「新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)」という立派な外題(げだい)があるにもかかわらず、(ちまた)では「お染久松」という通り名で呼ばれている。

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