大江戸ロミオ&ジュリエット
「そなた……お理解りでござりまするな」
突っ伏すかのごとく腰を折っていた富士の顔が、浄瑠璃の人形のようにくるりと、志鶴の方に向けられた。
しかも、お能の「増女」の面にそっくりの顔立ちで。
「ひっ……」
志鶴の口から思わず漏れる。
背が、ぞぞっとし、冷んやりとした汗がつつーっと流れていく気配がした。
「お千賀ちゃんも、そなたと同じ十八じゃ。
これ以上どこへも嫁せずに多聞を待たれよ、と申すのは酷い話じゃと、そなたも思われるでござりましょうや」
決して声を荒げることはないというのに、あることを望むその響きには、有無を云わさぬものがあった。