大江戸ロミオ&ジュリエット

玄丞は、安芸広島新田(しんでん)藩の御殿医だ。
併せて、居を構える青山緑町で町医として、武家だけでなく町家の者も分け隔てなく診ていた。

初音はその娘である。

志鶴より四つ下のまだ十四になったばかりではあるが、玄丞の妻であり我が母である千都世(ちとせ)が病弱で伏せがちであるゆえ、既に父の手伝いをしていた。

志鶴とは、先代の安芸広島新田藩主の奥方様が、表向き「御行儀見習」と称して武家のおなごを招き開いていた「手習所」で机を並べた仲だった。

先代の奥方様は、御前(ごぜん)様(藩主)に輿(こし)入れなされる前は国許(くにもと)で手習所をお開きになっておられたそうだ。

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