大江戸ロミオ&ジュリエット

「……松波さま、町家の者たちがこの御家(おいえ)のことをなんて噂しているか、ご存知でござりまするか」

初音が多聞をまっすぐ見て、口を開いた。

平生(へいぜい)、町医のときの父親を手伝う初音には、町家からのさまざまな噂話が耳に入る。

「初音、どなたに向かって申しておる。慎め」

父親の玄丞が険しい顔で娘を制する。


ところが。

「……構わねぇよ。
初音ちゃん、存分に云っつくれ」

多聞が懐手(ふところで)にし、にやりと「浮世絵与力」の顔で告げた。

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