大江戸ロミオ&ジュリエット
「た…多聞っ、そなたはまたっ、かような町家の物云いをっ」
富士が青筋を立てて、金切り声で喚いた。
「悪りぃな、おっ母さん。
おれら『町方』は町家相手の商売だからよ。お武家のかたっ苦しい物云いじゃぁ、ヤツらは知ってることでも流しちゃくんねぇのよ」
多聞が町家で人気なのは姿かたちだけではなく、この伝法で粋な言葉遣いにもあった。
家の中では母親がうるさいため、武家言葉を遣っていたが、気を抜くとつい出てしまって、その都度母親からえらい剣幕で叱られていた。
「わたくしのことを、さような下賤な名で呼ぶとは……っ」
富士は卒倒しそうな勢いで怒っていた。
志鶴も「夫」のあまりの変わりように、びっくりしていた。
だが。
格式張った武家言葉のときの多聞は、近寄り難い癇症な気立てに見えたのに、蓮っ葉な町言葉の多聞からは、不思議と血の通った温かみが感じられた。
「おめぇのお父っつぁんや兄貴だって、御役目んときにゃぁ、きっと町家言葉だぜ」
多聞は志鶴に、にやりと笑いかけた。
そして、初音を見て促す。
「さぁ、初音ちゃん、
……先刻の話を続けてくんな」