イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「しかし正式に入門なさるのであれば、一度お家元にも相談された方がいいのでは?」

「いえ、できればお家元には内緒にしていただきたいんです」

 智明さんのことだ。私がいけばなを学びたいと言えば、自分で教えると言ってきかないだろう。私のことでこれ以上智明さんの手を煩わせたくない。


「なるほど……。わかりました、それでは私の母を紹介いたしましょう」

「葛城さんのお母さま?」

「はい、母は香月流の本部で役員をしています。ちょうど今日母の教室がありますから覗いてみられますか」

「いいんですか?」

「もちろんです。母も喜びます」

「よかった!」

 うまくいって、ホッと胸をなでおろす。


「ですが、結月さんは本当によろしいのですか? お家元から、結月さんには他にやりたいことがあるとうかがっています」

 私がウェディングプランナーになりたいと言っていたこと、葛城さんにも話してあったんだ。

「それなら、いいんです。今は少しでもお家元のためになることをしたいので」

「そうですか」

 葛城さんが、僅かに目を細める。


「では早く業務を終わらせてしまいしょう」

 葛城さんの隣に座り、私は領収書の整理に戻った。

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