イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

 廊下から中を覗くと、総務所の中には二人女性がいる。

 声をかけたけど、おしゃべりに夢中なのか私には気づかなかった。


「あの方でしょ、お相手の方。選ばれるだけあって綺麗な方ね! いよいよ今日は幽玄さまにご挨拶されるとか」

「ああそれで、葛城先生も朝からそわそわしてらしたのね」

 あれ、これって松原さんのこと? お相手ってどういうことだろう。


「葛城先生のお話だと家柄も申し分ないようだし、もうすぐ師範のお免状もいただけるそうよ」

「そうなの。満を持してってわけね。これで香月流も安泰ね!」

 これって、まさか……。


「すみません、301教室の鍵、ここに置いておきますね」

「あら、ありがとう。お疲れ様です」


 それ以上聞いていられなくて、二人にぺこりと頭を下げて総務所を後にした。

 行儀が悪いのを承知でビルのロビーを駆け抜ける。本部が見えなくなるところまで一気に走って、足を止めた。

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