イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

 さっきの話って、智明さんと松原さんのことだよね?


 二人は結婚を控えていて、今日はその報告のため、松原さんは本部に来た。

 幽玄さまもいらしてるんだもん。きっとこの後、智明さんも来るのかもしれない。


 以前、智明さんとかわした会話が頭を過る。

『じゃあ運命の人に出会ったら、その人の前でも王子様キャラを貫くんですか?』

『そんなわけないじゃん。ありのままの俺を好きになってもらわないと』

『相手の方にいけばなの心得がなかったら?』

『そこは、がんばって習得してくれるでしょう。……愛があれば』

『ひょっとして智明さん、すでにそういう方がいらっしゃるんですか?』

『さあ、どうだろうね』


 なんだ、これって全部松原さんのことじゃない。

 松原さんは『いけばな王子』じゃない、素の智明さんのことも知っているし、智明さんと結婚して香月流を守っていくために、いけばなの稽古に励んでいる。

 智明さんが私に相手を訊かれてはぐらかしたのは、私も知っている人だったから。

 下手に話して、外部に漏れたらいけないとでも思ったのかのしれない。


 それなのに私ったら勘違いして浮かれて、馬鹿みたい……。

 智明さんは私には手の届かない遠い人。

 わかっていたはずなのに、近くに居すぎたせいで勘違いしてしまった。

 迂闊な自分が悔しくて、私は人知れず泣いた。

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