イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「……嘘でしょ!?」
完成したばかりの『花酔い』が荒らされている。
作品の中央に立つ久留米松の枝が折られ、その周囲にはいけたばかりの花が無残な姿で散っていた。
「……ひどいな」
すぐに控室に走り、智明さんと葛城さんを呼び戻した。
ぐちゃぐちゃにされた作品を見て葛城さんは言葉を失い、智明さんは無言で壁を叩いた。
「いったい誰がこんなことを?」
実は私には、心当たりがあった。会場に戻ってすぐ、花とは違う人工的な香りが残っていることに気がついたのだ。
犯人は、たぶん――。
「ひとまず落ち着こう」
考え込んでいた私を、智明さんの声が引き戻した。
確かに今は犯人探しより、作品を作り直すことの方が先だ。気持ちを落ち着けようと、深呼吸を繰り返す。
「お家元どうされますか? また花材を頼むにしても時間がない」
他の花材はともかく、中央の久留米松は今回のため智明さんがわざわざ京都の切り出し(花材の仲買人)に依頼して搬入してもらった特別なものだ。代わりのものなんてそう簡単には手に入らないだろう。