イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「お家元、この久留米松を使ってあげることはもうできないんですか?」
「え?」
犯人が折ってしまったのだろう。床に落ちていた立派な枝を拾い上げた。
無残な姿に、胸がチクリと痛む
「代わりの枝物を持って来たら、この久留米松は廃棄されてしまうんですよね?」
「まあ、そうなるかな」
「心無い人に傷つけられたのに、形が悪くなったから捨ててしまうなんて、そんなのかわいそうな気がして……」
「そうか、そうだよな。よし、久留米松は手直ししてこのまま使う。葛城は花岡に頼んでもう他の花材をもう一度納品できないか訊いてきて」
「かしこまりました」
「藤沢、今日は時間より長く手伝ってもらったし、もう遅いから帰りな」
「嫌です」
さらりと言う私に、智明さんは驚いて顔を上げた。
「お家元、私はあなたのアシスタントです。あなたが困っている時に、時間だからって帰ったりできません。手伝います」
「でも、何時までかかるかわからないよ?」
「構いません。ここで手伝わずに帰ったら、私たぶん一生後悔します。お願いします、私お家元のお役に立ちたいんです!」
父が倒れてから今まで、私を助けてくれて、支えてくれたあなたの力になりたい。
思いが、通じたのかもしれない。
智明さんは「わかったよ」と苦笑まじりに言うと、私の肩を叩いた。