イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「結月に言われるまで、俺折られた松の代わりに何を使おうってそればっかり考えてた。いけばなをやるうえで一番大切なこと、日々の忙しさに紛れて忘れてたのかもしれない」

 自然への敬意、いけばなのため手折ることを許してくれる花たちへの感謝の気持ち。

 智明さんはそう言うけれど、私の方こそあなたと出会わなければ、そのことに気づくことはきっと一生なかった。


「結月」


 いまだに力の抜けたままの私の手に、智明さんが触れる。唇で指先に触れると、またいつかの物言いたげな瞳が私を見た。

「結月の夢の邪魔をしたくなくて、言うのずっと我慢してたけど……。俺、やっぱり結月がいい」

 あの日、夜空に吹き上がる噴水の下で二人手を繋いでいた時のような濃密な空気が再び私たちを包む。


「一生一緒にいるのは、結月がいいなぁ」


 心の奥で、本当はずっと望んでいた言葉と共に降って来た柔らかな唇を、私は半分夢見心地で受け止めた。

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