イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「あのね、何で勘違いしたのかわかんないけど、千紗都の相手は葛城だよ」

「えっ……」

 思わず絶句した。そういえば、松原さんは葛城先生と一緒だったんだ!


「で、でも、これで香月流も安泰ですね、って」


 あの女性たちは、松原さんも一緒に香月流を背負って立つような言い方をしたのだ。相手が智明さんなんだって勘違いしても仕方ないんじゃない?


「葛城には今後海外支部の統括を頼むつもりなんだ。来年には、葛城は香港の支部に移る。その前に千紗都とも式を挙げたいって話してて」

「それじゃあ、葛城さんが海外に出張に行ってたのも、松原さんが師範の免状を取るって言ってたのも?」

「全部その準備のためだよ。千紗都にそんなこと言ってみろ、『羽根木くんが相手なんて冗談じゃない!』ってキレるぞ、絶対」

 いつか松原さんと葛城さんの話をしていた時みたいに、智明さんが肩を抱いてぶるぶる震える真似をする。


「嘘です、松原さんはそんなこと言うような人じゃないですよ」

「いや、結月は千紗都の本性を知らないんだよ。俺、葛城から千紗都と結婚するって訊いて思わず訊いちゃったもん、本当に大丈夫? って」


 松原さんのことを話す智明さんの顔が本当に怯えてるみたいで、すごくおかしくって、私は声を上げて笑った。

 笑っていたはずなのに。

 ここしばらく胸を締めていた不安が一気に解けて、いつの間にかそれは涙に変わっていた。

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