イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「一緒に圭吾さんに会いに行こう」と智明さんに誘われたのは、梅雨明け間近の日曜日。
 
 本部での稽古を終え、智明さんの車で病院へ向かった。


 最初は乗ることを躊躇した、智明さんの車。汚さないようにと気を張った革のシートも、もうすっかり私の体になじんでいる。


「圭吾さん、来たよ」


 智明さんは父に会いに来るとすぐ、手を握る。

 子どもの頃、よく父が手を繋いで歩いてくれたんだそうだ。

「手を繋いでたら、智明が来てるってわかってくれるんじゃないかと思ってさ」

 眠っていても触れたら伝わるものが必ずあると、智明さんは信じてる。


「私のこともわかるかな」

「わかるよ、絶対」

 智明さんの隣に腰掛け、父の反対側の手を握る。


「父さん、今起きないかな。二人一緒にいるところ見たら、絶対びっくりしますよね」

 長い間、別々の場所で父と関わってきた二人が、一緒にいるのだ。

 何事かと驚いて、目を丸くするに違いない。

 なんとなく楽しい気分になって、智明さんとも手を繋ぐ。


「結月、圭吾さんの前で大胆だな」

「へへ、だって」


 智明さんと目を合わせ微笑みかけると、突然、彼の目が大きく見開かれた。

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