イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
番外編*『Travelin’ light』
「結月、一緒に京都に行かないか」
智明さんにそう切り出されたのは、夏の間かかりきりだった映画のプロモーションもようやく終わり、少しスケジュールに空きができた八月の終わり。秋口に開催される年に一度の大きな花展、香月流いけばな展の打ち合わせ会議終了後だった。
「京都? 新しいお仕事の依頼でもあったんですか?」
香月流本部の総務所の壁に、今日刷り上がったばかりの花展のポスターを張り付けながら、智明さんに尋ねた。
「いや、花展で使う枝物の打ち合わせに、結月にも同行してもらおうかと思って」
「ああ、花芳(はなよし)さんのところですね」
花芳とは、京都にある花と植木の卸問屋のことだ。香月流本部では、主に東京にある宮内庁御用達である生花店、花岡(はなおか)から稽古や花展で使う花材を仕入れている。その花岡を通じて香月流と取引があるのが、京都の花芳だ。
智明さんは、花展などの際に使用する大物の花材の調達は、花岡を通さず、直接花芳に頼むことも多い。
「葛城さんは同行されないんですか?」
「葛城はちょうど海外支部の仕事が入ってて、今回は行けないんだ」
「そうなんですか……、わかりました。私の同行が可能か、葛城さんとも相談してみますね」
ポスターを無事貼り終え、自席へと向かう。PCのスケジュール管理アプリを立ち上げ、今月と来月、二か月分の予定を開いた。