イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「結月、着いたよ。降りようか」
「は、はい!」
鞄を手に取り、慌ててタクシーを降りた。点々と続く飛び石の先には、時代を感じさせる白壁の建物。麻でできた白い暖簾が、竹林から吹く風に揺れている。
「智明さん、ここは?」
「ここは羽根木家が贔屓にしてる旅館だよ。今日はここに泊まるんだ」
「えっ、泊まる!?」
驚く私をそのままに、智明さんはさっさと玄関まで行き暖簾をくぐる。引き戸に手を掛けると、「何してるの結月、早くおいで」 と何食わぬ顔で、私を手招きした。
どういうこと? 今日はここに泊まるの? 智明さんと二人で?
突然のことに、頭がパニックに陥ってしまう。
「そんな、いきなり言われても……。日帰り出張のつもりだったから着替えも何も用意してないし、それに明日も午前中から本部で花展の打ち合わせがありますよ?」
飛び石の上に突っ立ったままの私を見てふっと笑みを浮かべると、智明さんは私の方へ戻り、優しく肩を抱いた。