イジワル御曹司様に今宵も愛でられています


「智明様いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


 智明さんと共に玄関の前に立つと、三十代後半くらいの女性が暖簾の下から顔を出し、私たちに向かって丁寧に頭を下げた。

 この宿の女将さんだろうか。藤色の着物をきっちりと着こなし、所作も美しい。凛としていながら、匂い立つような色気がある素敵な女性だ。


「女将、無理を利いてくれてありがとう。彼女が藤沢結月さん。僕の恋人です」

 突然智明さんに名前を呼ばれ、背筋がピンと伸びる。

 ……それに智明さん、私のことを恋人だって紹介してくれた!

「藤沢です。今日はお世話になります」

 込み上げる嬉しさを噛みしめながらお辞儀をすると、女将さんは私を見て目元を綻ばせた。

「まあ、なんて可愛らしい方。智明様が大切な方をお連れするのに、うちの宿を選んでくださるなんて本当に光栄です。どうぞゆっくりお過ごしくださいね」

「ありがとうございます!」

 お礼を言うと、女将さんはまた優しく微笑んでくれた。


「それでは今日ご宿泊していただく離れにご案内いたします。こちらにどうぞ」


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