イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「そんな、いくら父のことがあるからってここまでしてくださらなくても……。それに葛城さんだってお忙しいのに、ご迷惑ですよね」
しかし葛城さんは微かに口元を緩めただけで視線を前に戻してしまった。信号が青になる。
「結月さん」
「はい」
「何かおっしゃりたいことがあれば直接お家元にお願いしますね。私は彼の指示には逆らえませんので」
なめらかにハンドルを切りながら、葛城さんはそう答える。
「……そうなんですか?」
逆らえないって、羽根木さんのことがそんなに怖いんだろうか?
「それに結月さんに関することであれば、お家元はどんなにお忙しくても必ずお時間を作ってくださると思います」
「……それも、父のことがあるからですか?」
しかし葛城さんは何も答えない。
どうして羽根木さんがここまでしてくれるのか、父との間に何があったのか、やはり私にはさっぱり見当がつかない。