イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「ごめん結月、待った?」

「ううん、私も今来たとこ。恵理、何にする?」


 四月に入って、一番最初の土曜日。

 私は恵理と、通っていた大学近くの行きつけのダイニングバーで待ち合わせた。


「どうなることかと思ったけど、まあ仕事決まってよかったよ」

「心配かけてごめんね」

 キンキンに冷えた生ビールで、最初の乾杯をする。

「お父さん、どう?」

「相変わらずかな」

 恵理も何度か父に会ったことがあり、とても心配してくれていた。

 父が倒れて数週間経ったけど、今でも発作的に不安な気持ちが込み上げることがある。

 そんな時、恵理はいつも親身になって話を聞いてくれた。


「それでどうなの、新しい仕事は」

 チリパウダーのかかった揚げたてのポテトをつつきながら恵理が訊ねる。

 羽根木さんのことは、もちろん恵理も知っていた。

 華道界の独身イケメン御曹司として人気で、恵理が愛読しているファション誌でも特集記事が組まれたこともあったらしい。


 恵理曰く、『日本中の女の子が彼のお嫁さんになりたいと思っているはず』だそうだ。

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