イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「……これも、『父のため』ですか?」

 雇ってくれたのも毎日の送迎も高価な着物も、全部父への恩返し?

 どうしてだろう。そう思うと、ちょっと悲しくなる自分がいる。

 羽根木さんは持っていた扇の先を口もとに当て、少し考えると口を開いた。


「いや、違うな。いつも飾りっ気のない格好でうろちょろしてる藤沢に、たまには綺麗な格好して側にいて欲しかったんだよ」

「えっ……」

 想像していなかった返事に、言葉を失った。……今私、絶対に顔が赤い。

「だから俺は今、すっごい満足」

 まただ。王子様然としている時には決して見せない、子どものように無邪気な笑顔。


 羽根木さんのこの笑顔を見ると、胸が苦しくなる。

 この間から、いったいなんなんだろう、これ。


 そういえばさっきから胃の辺りが痛い気がする。

 そっか、着崩れしたら困るからって、スタッフさん帯を締めすぎたのかな?

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