イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「お家元、素晴らしい作品を仕上げてくださってありがとうございます」
松原さんが、気心の知れた友人の顔から、ブランドを代表するプレスの顔になり羽根木さんに頭を下げる。
「大きな古木に今が盛りの枝垂れ桜や藤、石楠花などの春の花々を合わせて、長い年月顧客に愛されてきた『ルトロワ』の再生と新たな息吹を感じさせる。今回のリニューアルに相応しい作品だわ」
「過分な褒め言葉をどうも。俺も『ルトロワ』の敏腕プレスに喜んでもらえて嬉しいよ。苦労した甲斐がある」
さすがだ、松原さん。羽根木さんが作品に込めた想いをちゃんと汲み取っている。
ひょっとして華道の経験があるんだろうか。花のこともとても詳しい。
それに羽根木さんも、今回ばかりは松原さんに『お家元』と呼ばれたことを素直に受け入れている。
その表情から、香月流の家元として誇るべき仕事をしたのだという自信がうかがえた。