イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

 頭の中で今日の行動を一からなぞって思い出した。

「しまった! 葛城さんの車の中だ」

 会場に入る前にバタバタして、車の中に置いてきちゃったんだ。


「だから、それ着ればいいじゃん。それに汚そうが破こうが買い取ってあるから平気だよ。それは藤沢にやる」

 えっ、着物だけじゃなくワンピースまで!?

「そんな、なんでもかんでもいただくなんてできませんよ」

「そんなに気にしなくても」

「気にしますよ!」

 強く言い返した私を見て、羽根木さんは「なんでわかんないかなぁ」とため息を吐き出した。


「あのね、俺にとっては服がどうこうより藤沢が早く楽になることの方が大事なの。上司が部下の体調気遣うのは当然でしょ。わかってくれた?」

 そう言われると、もう私には何も言い返せない。

「わかりました……」

「じゃあ俺は外で待ってるからね。ごゆっくり」


 羽根木さんは私の頭にポンと手を置くと、静かに控室の外に出て行った。

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