朱莉さんの不可解な一週間
「あたし、あっちだから」

スーパーの前に停めてた自転車のカゴに荷物を入れながら北側を指差したあたしに、先生は「逆方向ですね」って笑って、雑然と並べられた沢山の自転車の中からあたしが自分の――会社の――自転車を引っ張り出すのを手伝ってくれる。


周りの自転車に引っ掛からないようにヒョイッと自転車を持ち上げた先生を見て、体の線が細い割には結構力があるんだなって、また想像と現実のギャップを感じた。


体育会系のあたしに対して文化系の先生に、あの頃は異国の王子様を見てるような気持ちを抱いてた。


今にして思えば、「恋」ってよりただの「憧れ」だったのかもしれない。


違う世界に住む大人の男の人に興味を抱いてるって感じだったと思う。


だからこそ、告白しようなんて微塵も思わなかったし、廊下ですれ違ったり、たまに話したりするだけで満足出来た。
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