いつか淡い恋の先をキミと
本当は聞こえていたのだけれど、わざわざそれを聞き返した理由は何故か。


それはもう一度その言葉を聞きたかったからなのか、聞こえないフリをしたかったのか。


自分でも分からない答えに混乱する。


そして混乱して残ったのは、さっき嘘をついたことに関する罪悪感だけ。


優しい嘘でもないのに聞こえないフリをしたことに対する罪悪感は思ったよりも大きかった。


「ごめんね」と、心の中で呟いた言葉はきっと陽平くんには届かない。


「私、陽平くんが好きだよ」


気が付けばそんなことを言っていた。


本心か本心じゃないのか。


好きか嫌いか、好きじゃないか嫌いじゃないか。


嫌いではない、嫌いじゃない。


好きじゃないことはないけど、好きかは分からない。


だけど好きだと信じたい。


くるみはくるみの信じたいことだけを信じたらいい――こんなときばかりあの時の響子ちゃんの言葉が蘇る。


「……今、なんて言った……?」


数秒の間が空いた後、陽平くんの口から発せられた言葉には驚きが隠せていなかった。


「私、陽平くんが好き」


一度言った言葉は取り消すことなんて出来ない。


取り消すつもりもない。


ねぇ、陽平くん、私に喜んでる顔を見せて。


それでさっきの罪悪感を消させて。


こんなことを考える自分自身が嫌でたまらなかった。


記憶を失くして、何が何かわからなくて、人の心が分からなくて。


いつも裏ばかり考えてしまって、だけど表では何も気が付かないフリをして。


そんな自分があさましい人間である気がしてならなくて。
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