いつか淡い恋の先をキミと
だけど陽平くんだけはそんな私を好きだと言ってくれて。


返せるものが私には何もなかった。


「それ…信じていいのか」


未だ驚きを隠し切れていない陽平くんが何故だか凄く愛おしく感じた。


私が陽平くんを好きだと言ったことがそんなにも予想外だったのかと、聞きたい。


それは悪い意味ではなく。


だってその顔には驚きと同様に喜びも隠し切れていないのだから。


あぁ、私やっぱり陽平くんの喜んでる顔が好きなのかもしれない。


好きかは分からない、でも好きになりたい。


その気持ちは最初から変わらない。


それに二度言葉に出してみて初めて感情が生まれた。


愛おしいという感情、私のこと好きでいてくれてありがとうという感謝の気持ち。


色々と分からないことは多いけれど、この気持ちがあればやっていけるんじゃないのかと漠然と感じた。


もう喜びを隠そうともしない陽平くんは私を抱き締めてしばらくの間離さなかった。


仄かな温もりが私を包み込んでくれた。


だけど何故かその行為が私の不安のすべてを安心感で包みこんでくれることはなかった。


まるでちょっとした隙間から不安が流れ出すかのように。


歩み始めた道が間違っていることに気付いていないことを囁いて教えてくれるかのように。


陽平くんに身を任せている私の中には違和感が塵のように積もっていった。
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