いつか淡い恋の先をキミと
今日の残りの仕事は例の如く黒板の受け皿の掃除と週番日誌の記入と鍵の管理だけ。


嬉しいようで寂しい気持ちに陥りながら、図書室の前を通った時、ちょうどそこから榛名くんが出てきた。


「は、榛名くん…っ!」


「あ、一ノ瀬さん」


「図書室行ってたの?」


「うん、本を返しにね。今日の放課後は用事があるから図書室行けないから返しておこうと思って、」


「……そ、そうなんだ」


「一ノ瀬さんは?」


榛名くんにそこまで聞かれたのはなんとなく覚えていた。


でもそこからどうやって教室まで帰ってきたのか、榛名くんと二人だったのかもあまりよく覚えていない。


だって、今日が週番最終日なのに。


今日が榛名くんと唯一二人だけで過ごせる放課後の最後なのに。


用事があるだなんて…。


分かってる。


用事があるなら仕方ないのは分かってるし、あたしが榛名くんの用事に口出し出来ないことは勿論分かってる。


そんなの痛いぐらい分かってる。


放課後二人で一緒にいられたのだって、榛名くんは本を読んでいただけで、あたしは週番で遅くまで残っていたという偶然が重なっただけ。


今まで榛名くんの何も――放課後に一人で本を読んでいたことだって――知らなかったくせに、こんなこと思っちゃいけない。


榛名くんの用事を恨むなんてことしちゃいけない。


あたしにそんな権限ない。


そう分かってるのに、この自分の落ち込みように気が付いてどうしたらいいのかわかんなくなる。
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