いつか淡い恋の先をキミと
そしてあたしは、この本が『好き』じゃなくて『大切』だと言った榛名くんの本をちゃんと両手で受け取って鞄に大事にしまった。


――『大切』な本なのに、あたしなんかに貸してもいいの?


――喋り始めてまだ一週間も経ってないのに、いいの?


そうやって色んな疑問を口に出してしまいたい。


だけどそれが出来ない理由はもう自分が一番分かっていた。


この一週間、必死で抑え続けてきたその想い。


たった一週間で人を好きになっちゃいけないような気がして。


認めたら何か可笑しくなっちゃいそうでずっと無視し続けてきた想い。


でも榛名くんと話せば話すほど、その想いは募ってきてしまって。


そしてさっきのあの綺麗な顔を見せつけられると、とうとう認めざるを得なくなってしまった。


君が好きだということ。


この溢れんばかりの気持ちは恋なんだということ。


榛名くんが好き。


初めて抱いたこの淡い恋心をどうしていいか分からない。


でも今は言うべきじゃないんだと思う。


女の勘がそう言ってる。


だからあたしはこの恋心を大切にしようと思った。


女の子に興味がなさそうな榛名くんにいきなり告白したって迷惑なだけかもしれない。


榛名くんとは本の感想を言い合えるだけで楽しい。


出来れば来週からもあたしはこうやって榛名くんと語り合いたい。


そうやって自分の気持ちを美化して、相手の為を思ってあたしはまだ告白しないんだと自身に言い聞かせた。


そしてそれが本当はただ自分の気持ちを言って嫌われるのが怖かったという事実には見て見ぬ振りをして――後に死ぬほど後悔することを、この時のあたしはまだ知らなかった。
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