いつか淡い恋の先をキミと
今まではそんなこと気にしたこともなかったくせに、ちょっと好きだと自覚したからって、そういうことを考えてしまう自分が酷く白状な人間に思えた。


そして無性に謝りたくなった。


誰に、とかそういう問題じゃないけれど。


だからなんだか申し訳なくなって榛名くんから目を逸らそうとした瞬間、手に持ってる本から顔があげられ、その一部始終を見ていると榛名くんの視線がこちらへ向けられた。


……あ、目が合った。


っていうかあたしが一方的に見つめてただけだけど。


それでも目が合ったことには変わりなんかなくて、口許を緩めたあたしに優しくふっと微笑み返してくれた榛名くんに更に想いだけが募った。


それから先生が来てホームルームが始まり、一時間目の授業開始のチャイムが鳴る。


いつもと何も変わらない周りの風景だけど、あたしの心はいつもなんかとは比べものにならないほど舞い上がっていた。


好きな人がいるだけで人生が変わる。


いつの日か読んだ恋愛小説にそんなことが書いてあった気がするけど、あの時は分からなかったその気持ちが今は少し分かる気がした。


だってその日一日、榛名くんとは朝ほんの少し目が合っただけで会話をすることは出来なかったことがあたしのモチベーションを最大限に下げていたのだから。


だから次の日の昼休み、お弁当を食べてから六人で集まっていつものように適当にお喋りが始まろうとしていたその時、榛名くんが教室から出て行くのが分かって、みんなにはトイレに行くと伝えてからその背中を追いかけた。


廊下に出るともう既に榛名くんの姿はなくて、トイレかなと思いしばらく男子トイレの前で待っていた。


でも男子トイレから出てくる男子たちは榛名くんじゃなくて、それにそろそろこの男子トイレの前で待つという行為自体が恥ずかしくなってきてしまった。


それで他に榛名くんが行きそうな場所を考えるとそれはやっぱり図書室しかないことに今更ながら気付く。
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