いつか淡い恋の先をキミと
「男って誰だ?」


陽ちゃんの疑問が口に出されてからは、取り敢えず誰も言葉を発さなくなり、沈黙が訪れた。


「見間違いじゃないの、それ。くるみみたいな背格好の女子ならいくらでもいるし、それにくるみが男子トイレの前に突っ立ってるわけないよ」


その沈黙を破ったのは翼で、そのあたしをフォローしてくれているとも取れる言い回しはとてもありがたかった。


「やっぱそうだよな」


「うん、そうだねー」


そしてみんな違う話題へと移っていき、別れ道に差し掛かったところで、今日拓哉の家に行くらしい陽ちゃんとはバイバイしてあたしは翼と二人で自分たちの家の方へと歩いた。


「翼、ありがとね」


「ん?」


「さっきの。助けてくれたでしょ?」


「あ、分かってたんだ?」


「そりゃあ分かるよ。いつもありがとう」


「お礼なんて別にいいよ。何か悩みでもあるんだったら聞くから言いなよ」


「うん」


今はまだ何も聞かないでいてくれるそんな翼の心遣いが嬉しかった。


翼の顔を横から窺いながら翼にだけは榛名くんのこと話してもいいかもしれない、と思ったけどそこはフェアじゃないからやめておいた。


翼にだけ話すのは違う。


翼に話すなら同じ幼馴染である陽ちゃんにも話さなきゃならない。


そして陽ちゃんに話すなら拓哉や悠実や響子にも話さないとそれこそフェアじゃない。


だから今はやめておいた。


それにあたしが誰かに自分の想いを話すことで、榛名くんに迷惑がかかるかもしれないことを考えたら自分の気持ちなんていくらでも抑えることが出来る。


あたしは君の本を読む邪魔をしたくない。
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