いつか淡い恋の先をキミと
そして翌日の放課後。


みんなにはちょっと用事があるからと言って――かなり、理由を聞かれたりしたけど――先に帰ってもらった。


教室に人がほんの数える程になる時まで待って榛名くんに話しかけに行くと、


「あ、一ノ瀬さん、ごめん、またタオル忘れちゃって… 」


物凄く申し訳なさそうに謝ってくれる姿に、こっちが申し訳なくなった。


「あんなタオルいつだっていいよ! 気にしないで! 寧ろあたしのせいで榛名くんに炭酸掛けちゃったんだから、こっちこそ本当にごめんね」


「一ノ瀬さんは悪くないよ」


「じゃあ榛名くんも悪くないよーーところで今日は何読んでるの?」


わざと話を切り替え、榛名くんの席の前の空いている席に背もたれが右になるように座りながら問いかけると、


「一ノ瀬さんには敵わないなーー今日はね、」


渋々受け入れてくれた榛名はそれからしばらく今読んでいる本に関するお話を始めてくれた。


その顔が本当に生き生きしてて見てるこっちまで楽しくなってくる。


この二ヶ月間見ることが出来なかった顔。


あたしが話しかけないと多分ずっと見ることが出来なかったんじゃないのだろうかと思える程の顔。


「どうしたの、一ノ瀬さん。俺の顔に何か付いてる?」


「う、ううん!何にも付いてないよ!」


「もしかして退屈?」


「そんなことないよ!もっと聞きたい!」


「なら良かった…俺は一ノ瀬さんの話も聞きたいな」


「あたしの?」


「うん、一ノ瀬さんの」


「……あ、榛名くんに貸してもらってる本ね、まだ読んでる途中なんだけど――」
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