いつか淡い恋の先をキミと
「なんて事するの!」


陽ちゃんのいきなりの行動に怒りすら湧いてきた。


でも、あたしがそう言った瞬間、「キャー!」という悲鳴が聞こえ、そちらの方を向く。


するとそこには陽ちゃんが放り投げた本が誰かが飲んでいたイチゴミルクの牛乳パックに命中し、床にはそのイチゴミルクが散らばり、更にはそのイチゴミルクの上に榛名くんから借りたあたしの本が無惨にも開かれた状態で置かれていた。


……あぁ、どうしよう。


これ、榛名くんの本なのに。


あたしのじゃなくて榛名くんのなのに。


それにこれは榛名くんが『大切』だと言った本なのに。


普通は本に対して『大切』だなんて言葉使ったりしない。


それなのにわざわざその言葉を使うぐらいなんだから、もうそれは本当に『大切』なものだと二重に教えてくれているようなもので。


そんな『大切』な本をあたしは――


「……っ、」


――大切に出来なかった。


鞄からタオルを出し、目から出てくる涙をどうすることも出来ないまま、あたしはその本に付着した拭っても拭っても染み込んだままで消えないイチゴミルクをこれでもかというくらいに拭き取った。


それでも消えないものは消えない。


ふやけたままで何にも戻らない。


匂いだってそのまま。


「…なんで、泣くんだよっ!」


そこに陽ちゃんがやって来た。


この状況を作り出した本人。


当然このどうするにもやるせない気持ちは怒りとなり陽ちゃんに向けられた。
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