いつか淡い恋の先をキミと
「お久しぶりです、おじさん」


「久しぶりッス」


陽平と俺で揃って挨拶をする。


おじさんに会うのはいつ以来だろう。


「くるみの記憶のことだが、」


そう口火を切ったおじさんはそれから一呼吸おき、


「極端な話をすれば、明日にでも戻るかもしれないし、もう一生戻らないかもしれない」


落ち着いた声でそう言った。


「……」


「……」


いきなりそんなことを言われて、誰も何も納得出来るわけがない。


だって昨日まで。昨日の朝までは。


俺のことを「翼」っていつもの笑顔で呼んでいたのに。


それがもう今日は、俺のことが誰だかわからないなんて。


何をどう受け入れればいいのかなんて、わかるはずがなかった。


そんなの映画とかドラマだけの話だと思ってた。


実際、現実にこんなことが起きるなんて。


「おじさん、今、くるみはどうしてるんスか?」


陽平がおじさんに問う。


「今は、抗不安薬っていうのを静脈注射して寝てる」


「そうなんスか…」


「親がこんなことを言うのはどうかと思うんだが、」


「……」


「これからもくるみの見舞いに来てやってほしい。くるみはお前たちのこと何も覚えてないから、お前たちには辛い思いをさせるかもしれない。だからそれでもいいと言うんなら、」


「当たり前じゃないスか」


「陽平…」


「そうですよ、おじさん」


「そうか……お前ら、いい男になったな」


少し照れたように話すおじさんに思わずこっちが照れそうになった。
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