いつか淡い恋の先をキミと
それから、色んなことを聞いた。


名前や誕生日、さっき先生に聞かれて答えられなかったこと全部を丁寧に教えてもらった。


普通の人なら、知ってて当たり前のことを私は当たり前のように教えてもらった。


「お母さん」と「お父さん」。


そう呼んでとも言われた。


二人とも凄く優しい。


だけど…埋まらないこの心の穴はなんなんだろう。


不安で不安で仕方ない。


「じゃあまた明日くるからね、」


二時間後、「お母さん」はそう言って、病室を後にした。


目が真っ赤なことには気付かないふりをした。


二人の話によると、あたしの頭に巻いてある包帯もあと一週間ほどすれば取れるらしく、退院は2、3日でできるらしい。


どうして怪我をしたのかは全く覚えてなくて、これまた二人の話によると倒れてきた看板の下敷きになったらしい。


聞いただけでも痛そうではあるが、実際の痛みはそんなにないから不思議だった。


記憶をなくすほどの怪我なのかどうかも不思議だった。


そして翌日。


看護師さんが朝食をさげてくれた後、「お母さん」と「お父さん」がやってきて、それから一時間後くらいに今度は昨日目を覚ました時にいた同い年くらいの子たちがぞろぞろとやってきた。


全員で5人。


男の子が3人と女の子が2人。


みんなあたしの顔を見て、懐かしそうな悲しそうな顔をする。


「くるみ」


一番最初にそう私の名前を呼んでくれたのは、3人の中で一番顔の整った男の子だった。


「俺の名前は関口陽平。お前とは、この隣にいる藤堂翼と生まれた時からの幼馴染。よろしく」


そして自己紹介をされ、それに続いてあとの人たちもみなそれぞれ自分のことを紹介してくれた。


「……ありがとう」


みんなの自己紹介が終わって、なんだか凄く楽しかった私はお礼を言った。


記憶を失くす前の私がこんな人たちに囲まれていたのだとしたら、それは物凄く嬉しい。
< 56 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop