いつか淡い恋の先をキミと
「お礼なんて言わないでよ、くるみ。照れちゃうじゃん」


森野響子ちゃんがそうあたしの方を見ながら、本当に照れ臭そうに言う。


響子ちゃんと佐々木悠実ちゃんと小野拓哉くんは幼馴染じゃなくて、高校からの付き合いなんだとさっき3人から教えられた。


高校に入学した時、私が響子ちゃんに喋りかけたらしくそこから仲良くなったらしい。


響子ちゃんは悠実ちゃんと元から友達で、拓哉くんはそんな女の子2人と同じ中学らしく、そこに元々幼馴染だった陽平くんと翼くんが加わって6人でグループが出来たんだと。


他にもたくさん色んなことを聞いた。


すると、まるで私の空っぽの頭にみんなから教えられる内容がどんどん詰まっていくみたいで。


どうして私は記憶を失くしちゃったんだろう……。


そんな自己嫌悪にかられた。


考えても仕方のないことを考えてしまう私の心が顔に表れていたのか、


「どうした、くるみ」


陽平くんが声をかけてくれる。


「……ううん、なんでもないの」


そんな気遣いすらなんだか申し訳なくなって、話題を変えようと、


「……そう言えば、昨日のもう一人いた男の子は今日はいないの?」


始めの方からの疑問に思っていたことを口に出した。


だけどその瞬間――病室内の空気が凍るのが、記憶を失った私でも分かった。


本当にそれは一目瞭然で。


誰一人として何も喋らなくなった。


だから、「わ、私の気のせい…だったのかもしれない、」この空気が嫌でそう言ってしまった私に、「そうだよ、気のせいだよ」乗っかってくれたのは悠実ちゃんだった。


そこからはあまり覚えてなくて。


ちょっと疲れたと言った私にみんなが気を遣って、また来るね、そんな感じでわかれた。


本当は疲れてなんていない。


気になった。


みんなが隠そうとする昨日の男の子の存在が。


気のせいなんかじゃないことは自分がよくわかっていた。


忘れるはずなんかない。


あんな悲しそうな瞳をした男の子のことなんて。
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