いつか淡い恋の先をキミと
だけど病室内の雰囲気がそれについてこれ以上聞くことを許していなかった。


なんでなんだろう。


何かあるのだろうか。


でもその何かが分からない。


考えても考えても何も分からないし何も浮かんでなんかこない。


どうしようもないジレンマに陥りそうな毎日を退院するまでの数日間ずっと考えていた。


退院するまで「お母さん」と「お父さん」、それにあの5人は毎日お見舞いに来てくれては色んな話をしてくれた。


そして退院して「家」に「お父さん」の車に乗せられ連れて行かれた。


ここに17年間もの間住んでいたという話らしいけど、「お母さん」に「どう?懐かしい感じがする?」と聞かれ、正直何も感じなかった。


だけどそれを正直に答えるのにも、気が引けて少しだけ嘘を吐いてしまった。


毎回毎回、色んなことについて覚えているかと聞かれることがここ数日でかなりある。


だけど本当に何も覚えていない。


最初の頃は覚えてないと答えることに何も感じなかった。


だけどその回数が増えるに連れ、私が覚えてないと言うと、周りの人たちの表情が曇ることが分かった。


だから。


だから嘘を吐くしかなかった。


同じような内容でも、「懐かしい感じはあまりしない」と「少し懐かしいような感じがする」では相手の受け取り方には凄い違いがある。


だから私はそんな些細な嘘を毎日吐いていた。


だけど。


だけど、今日。


そんな些細な嘘を吐けないような私の過去を知ることとなった。
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