いつか淡い恋の先をキミと
翼くんのおうちに招待された私は迎えに来てくれた陽平くんと一緒にそこへ向かった。


「お母さん」と「お父さん」は二人を昔から知っているらしく、それなりに信用しているようで、迎えに来てくれた陽平くんにくるみをよろしく、と穏やかな表情で頼んでいた。


私は知らないのに……。


そんな不安なんて分かってくれない。


どうして何も思い出せないの。思い出さないの。


自分を責めることしか出来ない。


「おい、くるみ!」


陽平くんに腕を引っ張られ、気が付くと自転車に乗ったおじさんが文句を言いたそうな顔をしながら横を通り過ぎて行った。


「どうかしたのか、ボーッとして」


「……ううん、なんでもないの、ごめんなさい」


「そうか。なんかあるなら言えよ?」


「うん、ありがとう」


そんな話をしているうちに翼くんのおうちに着いたようで、インターフォンをならしたすぐ後、玄関を開けてくれた翼くんは優しい笑顔で迎えてくれた。


そして翼くんの部屋で陽平くんと翼くんが病室で聞いたこと以外にも色々な話をしてくれた。


「これ、くるみだよ」


大きめの本棚の中からアルバムを取り出した翼くんが開いてすぐのページを指差してそう言った。


「そうなの?」


確かにそこには私と思わしき人物が翼くんと陽平くんの間に立って、笑っている。


でもそれは私にとって鏡で見た包帯を巻いている自分の顔と良く似た人物が、そこにいるだけのことでしかなかった。


何も記憶にない。


「覚えてないか?」


「……ごめんなさい」


「陽平、威圧的な言い方はやめろ」


「元々こんな喋り方だから仕方ねぇだろ」


「あ、あの…気にしてないから、揉めないで?」


「そうだね、ごめんね」


「悪ぃ」
< 59 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop