いつか淡い恋の先をキミと
私を止める陽平くんの声を背中で聞きながら私は翼くんの家を飛び出した。


急いで「家」に帰って、「お母さん」からアルバムのアルバム場所を聞いてそれを開いた。


そして陽平くんの顔を見る。


綺麗で整った顔。文句の付け所がない。


こんな人が私と記憶を失う前に付き合ってたいただなんて。


そんな大切ならことすら簡単に忘れちゃってる自分が嫌になる。


だって私、学校でただ転んだだけなんでしょう?


どうしてそれだけでこんな思いしなくちゃなんないの。


どうして記憶なんて失くしちゃうの。


「お母さん」や「お父さん」だって本当かどうかも分からないなんて、嫌なのに。


だって私はつい一週間くらい前まで普通に生活してたんでしょ?


記憶があったんでしょ?


友達とも仲良くして、恋人である陽平くんと付き合ってたんでしょ?


なのに今は、全然分かんない。


自分が一体誰で、誰と仲が良かったのかも。


誰と付き合ってたいたのかも。


何一つ人に教えられないで分かることがないなんて。


「…こんなの、やだよぉ…っ、」


本当は不安でしょうがないの。


心にぽっかり穴が開いてしまったみたいで埋まらない。


寂しい。


誰か助けて。


でも誰も助けてくれない。


誰も私のこの不安を分かってくれない。


みんな私のことを当たり前のように“くるみ”と呼ぶ。


そしてみんなはそれぞれ昔、記憶のあった私がみんなを呼んでいた呼称で呼べと言う。


だけど無理だよ、そんなの。
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