いつか淡い恋の先をキミと
想う相手を間違えてしまい、
退院してから二週間が過ぎた。


八月も上旬で、窓を開ければ蝉のうるさい鳴き声が部屋に嫌と言うほど届く季節。


私の記憶はまだ戻らなかった。


頭の包帯も取れ、傷も残らないとのことだそうで良かったねと悠実ちゃんと響子ちゃんは言ってくれた。


全然良くないよ、なんて。言えない。


傷なんていくら残ったっていい。


だから、お願いだから記憶を戻してよ。


担当医の先生は言った。


記憶を戻すことを考えるんじゃなく、これからどうやって周りと上手く生きていくか、そっちを優先して考えた方がいい、と。


そうなのかもしれない。


先生の言う通り、過去に固執はしない方がいいのかもしれない。


だから出来るだけ考えないようにはしてる。


あれから陽平くんと翼くんとは定期的に短いスパンで会ってはいるけど、正直どうしたらいいのか分からなくて。


私が陽平くんの彼女だったことについては触れていない。


触れられない。


今日は会う約束をしていない二人のことを考えて…虚しくなる。


気分転換にと思い、部屋の窓を開けると玄関の前に人がいた。


同い年くらいの私服を着た男の子。


……あ。


……あの人。


確証は全然ないし、記憶を失くしてから初めて目を覚ました時に一度だけ見たことがあるからあまり覚えてないけど。


気が付くと身体が動いていた。


急いで階段を下りて、玄関のドアを開ける。
< 66 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop