いつか淡い恋の先をキミと
気が付けばそんなことを口走っていた。


私の彼氏だったと言った陽平くんに。


私のことを未だに記憶を失う前と変わらず、好きだと言ってくれた陽平くんに。


「無理してそう呼ぶ必要はねぇ」


「……うん」


陽平くんのことを好きかどうかなんてこの時の私には分からなかった。


だけど過去に付き合ってたという事実があるなら、これから好きになる可能性ならいくらでもある――そう信じて疑わなかった。


だってこのまま陽平くんを拒否したら、私の傍には誰もいてくれなくなる。


そんなの嫌だ。


今でも記憶を失くして不安で不安で仕方ない状況なのに、人に拒否されることがこんなにも辛いだなんて知らなかったの。


名前も知らないあの人に拒否されただけであんなに辛いんだから、私の幼馴染で彼氏だという陽平くんに拒否されたら多分私はおかしくなる。


何も思い出すことが出来ない私に、自分のことを忘れろと言った彼の言葉に、どうしようもなく心が揺さぶられた。


だから私は縋った。


後にどれだけ後悔するかも知らずに私は陽平くんに縋った。


そして翌日、一度病院に行って診察を終え、建物を出るとそこには陽平くんたちがいた。


「……どうしたの?」


「くるみんちに行ったら、翠さんにお前が病院行ってるって聞いたから迎えに来た」


「……そっか、ありがとう」


「もう怪我の方は大丈夫そうか?」


「うん、傷口も塞がってきてるって言われたからもう大丈夫だよ」


「そうか。よかった、じゃあ今からみんなで遊びに行こうぜ、くるみ」


「……うん、いいよ。何処に行くの?」


「海」


「でも私、水着持ってないよ…?それに泳げるのかも分かんないし…」


「くるみには俺がついてるだろ。水着は向こうで買えばいい」


「……そう、だね」
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